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カメラマン 木村周平さん カメラマン 木村周平さん

Interview — #8

あの青を、どうしても形に残したかった。
——30年の歳月で磨き上げた「一瞬」を逃さない技術。

カメラマン 木村 周平

海中で宝石のような魚を追いかけていた20代のあの日。カメラマン・木村周平さんの心に残ったのは「この光景を形に残せない」という事実への悔しさでした。30年のキャリアで辿り着いたのは、「写真は感性ではなく、技術と準備の結果だ」という徹底した職人哲学。

Photographer — Shuhei Kimura

About this story

スマホやAI時代でも揺るがない、現場の温度を正確に記録する「代えの利かない仕事」の核心に迫ります。

木村周平さん インタビュー01
01

この景色を、
どうしても形に残したかった

カメラマンの道に入った最初のきっかけ、今でも鮮明に覚えていますか?

フィリピンの海に潜った時のことは、今でも忘れられないですね。水中で「ニシキテグリ」っていう、宝石のように鮮やかな魚を追いかけていたんです。あまりに綺麗で見惚れてしまって……。その時はスキンダイビングだったので息を止めている時間が長すぎて意識が朦朧としていた。ブラックアウト、つまり気絶寸前ですよ。

慌てて浮上して、海面で息を整えながら思ったんです。「この景色を、何とかしてそのまま形に残したい」って。でも、当時持っていた簡易的なカメラで撮ってみても、現像してみると全然違う。自分が見たあの青が、どこにも写っていないんです。それがたまらなく悔しくてね。仲間から一眼レフを無理やり借りて、本屋で写真の本を買い漁って、独学で始めました。当時は時計の販売員をしていて、稼いだお金は全部海につぎ込んでいましたね。国内でもダイビングは一日3〜4本潜ると3〜4万円くらい飛んでいく。普通の給料じゃ全然足りないなと笑いながら、でもその「持ち帰れない」悔しさが、僕を写真の深みへ引きずり込んでいったんです。

02

「知らない人を50人
撮ってきてください」

その後、あえて専門学校に進んだのはどうしてですか?

21、2歳の頃、このまま働き続けるより、もう一度ちゃんと学生をやりたいなって気持ちが湧いてきたんです。それなら一番好きな写真を勉強してみようと、専門学校に入りました。

そこでの課題は、想像以上に実戦的でした。「知らない人を50人撮ってきてください」って言われたんです。周りの学生が声をかけられずに悩んでいるのを見て、僕は「どうやったら最短ルートで、最高の表情を撮り切れるか」を考えました。向かったのは新宿の大きなチェーンの居酒屋です。仕事を終えて、お酒を飲んで騒いでいるサラリーマンの方々なら、きっと快く受けてくれるはずだと。「今日一日を終えた、皆さんの最高の素顔を撮りたいんです」なんて言葉を添えて、数日で撮り終えました。当時の先生は本当に厳しくて、提出した写真を目の前でバシバシ裁断されたりもしましたが、あの「一瞬で最適な画角を決める」という、プロとしての基礎を徹底的に叩き込まれたのは間違いないですね。

木村周平さん インタビュー02
写真は感性じゃなく、見せる技術だ。
その言葉だけは、今でも真理だと思っている。
木村周平さん インタビュー03
03

雷鳴の中で、
自分で自分を褒めた夜

30年のキャリアの中で、最も記憶に残っている「瞬間」を教えてください。

テレビ番組のロケで行った、伊豆諸島・青ヶ島での星景の撮影かな。カルデラの山の上、真っ暗闇の中でひとりで夜空に向かってシャッターを開け続けていたんです。背後では遠雷がパンパンと鳴っていて、正直、かなりビビっていましたよ。

撮影は星景のタイムラプス。夕方から夜まで数時間かけて、数秒間のスローシャッターを10,000枚ほど切るんです。その最中に、背後で巨大な雷が何度も落ちた。辺り一面が、巨大なライトを浴びせたように一瞬で真っ白に明るくなったんです。後でPCで写真を確認した時は言葉を失いました。本来暗いはずの空が真っ青に発光して、その中に満天の星が広がっている。晴れているのに、青空の中に星が浮いているような、狙って撮れるはずのない一枚がそこにあった。「何これ、すごくない?」と、仕上がった写真を見ながら、ひとり自分を褒めましたよ。あの場所にいて、あの瞬間にシャッターを開けて待っていた。それこそが、一生に一度の「青の星空」を切り取った瞬間だったと思っています。

04

かつての「反面教師」から受け取った、
一番大切な言葉

木村さんが掲げる「写真は技術だ」という持論。一体どこでその確信を得たのですか?

20代、写真事務所で仕事をしていた頃の、正直あまり好きではなかった上司の言葉なんです。朝から酒臭くて支離滅裂な人だったけど、彼が言った「写真は感性じゃなく、見せる技術だ」という言葉だけは、今でも真理だと思っています。

照明の種類、位置、数値をどう設定し、どのレンズを選び、どの角度から撮るか。それは不安定な「センス」に頼るものではなく、積み上げられた「理論と技術」です。前日の夜に、実際の撮影現場をイメージしながら、予備の機材まで完璧に準備をする。どんな状況でも、安定して仕上げる。それがプロだと彼から学びました。反面教師でしたけどね。

今は教えてくれる人がいない分、自分で経験したことを反芻したり、情報を集めて技術が古くならないよう自宅でテストを繰り返したりしています。センスというものが機能するとすれば、それは経験と技術の土台があって初めて、自由に動かせるものなんですよ。

木村周平さん 撮影風景04
木村周平さん インタビュー05
05

相手の懐に飛び込む、
泥臭い「準備」

現場をコントロールし、最高の写真を撮るために意識していることはありますか?

とにかく事前準備です。撮影対象のリサーチも大事ですね。人であれば年齢、立場、趣味、出身地などSNSやコーポレートサイトに載っている情報です。話の中で話題になるときがあればこちらから話を振ってみたり、普通に会話が出来る状況になるとその方の自然な表情が出てくると思います。

自然なら日出・日没の時間、方向、行き方や安全面の担保方法、料理撮影や商品撮影の場合は背景に小物を置いて演出するイメージの共有やそれにあったライティングの組み方をラフで描いたりです。そんな地道な準備が現場で僕の大きな支えになっています。

その場に、その温度の中にいた人間だけが
切り取れる何かがある。
06

ライバルを意識するより、
自分にしかできない仕事を

スマホやAIで誰もが綺麗な写真を撮れる時代ですが、焦りはありませんか?

全くないですね。むしろ、表現がこれだけ身近になったのは喜ばしいことだと思っています。プロとして仕事がなくなるなんて、焦りは感じていないんです。

誰でもある程度綺麗に撮れる時代になったからこそ、「僕に頼みたい」という仕事が明確に際立つようになった。AIについても、修正や合成として使えば、これほど頼もしいパートナーはありません。ただ、AIには絶対に作れない写真がある。それは「その場に、その温度の中にいた人間だけが切り取れる何か」や、被写体と心が通った瞬間にしか生まれない「一点物の表情」です。それを手繰り寄せるのは、結局のところ、現場に立つ人間の「技術」と「準備」でしかない。

AIの進化に嘆いたり、新しい才能を「出る杭」だと思って打つようなことに労力を使うのは、本当に時間の無駄ですよ。そんな暇があるなら、自分のレンズを磨いて、新しいライティングを試していた方がよっぽど建設的ですからね。

木村周平さん インタビュー06
木村周平さん インタビュー07
07

明確な目標なんて、
なくていい

カメラマンを志す若い人へ、伝えたいメッセージをお願いします。

まずは、自分の心が少しでも動いたものにレンズを向けてみてください。豪華な景色じゃなくていい。今日食べたご飯、家で待っている猫、ふと見上げた空の雲。自分が「いいな」と思った瞬間に、とにかくシャッターをたくさん切ればいいんです。そして技術という土台をしっかり身につけてください。

僕に関して言えば最初から高尚な目標があったわけじゃない。「フリーランスって名乗りたかっただけ」で独立して、なんとなく必死にシャッターを切っていたら30年になっていた。明確なゴールがなくてもいい。手を動かしていれば、なんとかなるもんですよ。

08

もう一度、あの海へ

最後に。木村さん、もう一度海を撮りたい気持ちはありますか?

もちろん、行きたいですよ。でも現実的にはね(笑)。ブランクもあるし、納得いく機材と取材費を揃えたら相当な出費になります。何より今は守るべき家族がいて、3人の子どもがいる。それを放り出して「海に行ってくるわ」とは、今の僕には言えない。

でもね、もしチャンスがあるなら。30年かけて磨き上げてきた今の技術を全部持って、もう一度あの海に挑んでみたい。ニシキテグリやピグミーシーホース……あの頃の簡易的なカメラでは決して残せなかった感動を、今の僕ならどう切り取るのか。体力を維持できているうちに、ね。

木村周平さん インタビュー08

Message

手を動かしていれば、
なんとかなるもんですよ。

最後に、これから何かに挑もうとしている人へメッセージをお願いします。

明確なゴールがなくてもいい。

自分の心が少しでも動いたものにレンズを向けてみてください。豪華な景色じゃなくていい。「いいな」と思った瞬間に、とにかくシャッターを切ればいい。技術という土台をしっかり身につけて、手を動かし続けていれば、30年後にはきっと、あの頃見えなかった青が写っているはずです。

Portfolio

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Afterword

私は木村さんに、写真を撮ることの本当の厳しさと、その先にある納得感を教えていただきました。単なる「センス」という言葉に逃げない、「徹底的な準備と技術」に裏打ちされたプロの姿。20代の頃に海で見たあの青を「どうしても形に残したかった」という純粋な衝動が、30年経った今もなお、木村さんの指先を動かし続けています。
光の指し方や、その一瞬の表情。木村さんの言葉に触れたことで、世界は「記録すべき価値のある瞬間」に満ちているのだと再確認できました。一枚のカットの向こう側に、30年かけて磨き上げられた技術と、海に魅了された当時のままの瞳が、今も鮮やかに広がっています。

筆者画像

秋田 信明 Nobuaki Akita

Wakku Inc. CEO|wakkul

SI・Web業界での28年の実務経験を経て、現在はセルフプロモーションサービス wakkul(ワックル) の企画・設計・運営を手がける。モデル・職人・料理人・エンジニアなど、あらゆる分野で技と物語を持つ人が自分らしく世界へ発信できる場づくりをテーマに、戦略と技術の両面から取り組んでいる。

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