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haco style 合同会社 代表 西尾葉子さん haco style 合同会社 代表 西尾葉子さん

Interview — #12

「一人じゃ何も作れないから」。
東京から香港、福島の過疎の町へ。出会いの連鎖が紡ぐ、楽しく自由な日本酒のカタチ。

haco style 合同会社(ハコスタイル) 代表 西尾 葉子

Producer — haco style

About this story

国内外を舞台に、多様なキャリアを切り拓いてきたhaco style 合同会社(ハコスタイル)代表の西尾葉子さん。アパレル業界から一転、日本酒の世界へ飛び込み、現在は香港のパートナー企業や福島の酒蔵(米焼酎蔵)を巻き込んだ、全く新しい日本酒ブランドのプロデュースを手がけています。型に囚われず、関わる人すべてを笑顔にする巻き込み力の裏側にある、泥臭くも愛おしい挑戦のストーリーを伺いました。

西尾葉子さん インタビュー01
01

アパレルでの出会いが、すべての始まり

まずは、現在の日本酒ビジネスに関わることになった最初のきっかけを教えてください。

30代前半の頃、ひょんなことからメンズのアメカジを扱うアパレルブランドの立ち上げに携わっていました。中国の大きな工場、ニューヨークのチーム、そして東京のチーム。それぞれのハブとなって国境を越えてプロジェクトを動かしていたのですが、その時に一緒に立ち上げをやっていた仲間が、今の香港のビジネスパートナーなんです。彼はカナダ育ちの香港人(現・酒楽文化有限公司のパートナー)で、とにかくお酒が大好きで。日本に来るたびに私の友人たちとみんなでワイワイ飲んでいるうちに、日本の食文化や日本酒の素晴らしさにすっかり魅せられてしまって、香港で日本酒のビジネスをやりたいと言い出したのが始まりでした。

02

週末はカメラ小僧に。
顔を売るための泥臭い下積み時代

そこからすぐに日本酒の会社を立ち上げられたのですか?

いえ、お酒の販売免許や製造免許を取得するハードルは、今も昔も格段に高いのが現実です。酒類販売と輸出の免許を取得するのに2年近くかかってしまいました。その間、立ち止まっているわけにはいかないので、まずは生活を安定させるために、中途採用で大手自動車メーカーの海外広報部に入社しました。平日は広報として働きながら、週末になるとカメラとマイクを持って、東京中で開催されているお酒のイベントに取材陣として赴く日々です。自分でインタビューをして記事を書き、とにかく足繁く現場に通って業界の人に名前と顔を覚えてもらう。そんな地道な下積みを2年ほど続けました。

西尾葉子さん インタビュー02
自分でインタビューをして記事を書き、とにかく足繁く現場に通って業界の人に名前と顔を覚えてもらう。
西尾葉子さん インタビュー03
03

コロナ禍の展示会で出会った、
熱烈なスカウト

その後、現在の主要な拠点である福島県只見町とは、どのようにして出会ったのでしょうか。

コロナ禍の真っ只中、東京ビッグサイトの国際展示場で開催されていたイベントに、スタッフと半分勉強のつもりで遊びに行ったんです。外出自粛の時期で会場にはほとんど人がいなくて、歩いていたら出展していた只見町の役場の人に熱烈に声をかけられましてね。そこで紹介された米焼酎の香りを嗅いだ瞬間、鳥肌が立ちました。焼酎なのに、ものすごい大吟醸の華やかな匂いがするんです。驚いている私に、役場の方が明日にでもオンラインで蔵元と繋ぎます、と。そこからトントン拍子に話が進み、2週間後にはハンコを持って只見に来てくださいと言われて、気づけば福島に飛び込んでいました。

04

最初は遠巻きの視線から。
作業を共にした先に見えた一体感

過疎の町に突然東京や香港のチームが入ってきて、地元の方々との関係性は最初からうまくいったのでしょうか。

最初は完全に、何だか怪しい奴らが東京からやってきたぞという状態からのスタートですよ。高齢化が進む小さな集落ですから、おばちゃまたちからも遠巻きに心配そうに見られていました。でも、私たちの作るお酒はボトルのラベル貼りも箱の組み立ても、機械が使えない特殊な仕様なので、全部一個一個手作業なんです。蔵にこもって、地域のおばちゃまたちとみんなで肩を並べて、出荷に向けてにかかりきりで作業をやり切りました。もう、お祭り騒ぎです(笑)。そうやって同じ時間を過ごして一つのものを完成させたら、次に行った時にはようこそいらっしゃい!と、我が子のように迎えてくれるようになって。人ってこうやって感情で動いていくんだなと、ものすごい一体感を感じました。

西尾葉子さん インタビュー04
なんと日本全国で輸出用清酒製造免許の交付第一号という歴史的な栄誉を勝ち取ったんです。
西尾葉子さん インタビュー05
05

制度の壁を越え、蔵元が勝ち取った
「交付第一号」の衝撃

歴史ある酒造りの世界へ飛び込むことに、迷いや不安はありませんでしたか?

実は、最初は伝統的な業界のルールや高いハードルがあるのではないかと、少し身構えていたんです。歴史ある世界に、外国人のパートナーと東京の女性の組み合わせなんて、一番受け入れられにくいコンビネーションだろうって。微かにあった不安を吹き飛ばしてくれたのは、香港のパートナーがどうしても挑戦したいと熱意を持って言ってくれたことです。ちょうど海外輸出専用に限って新しい日本酒製造免許を新設するタイミングで。

新しい日本酒製造免許は、非常に審査が厳しい高い壁で、製造者、輸出者、輸入者がそろわないと取得できない免許でしたが、ねっかのほうから「取得したいからぜひ一緒に」とオファーを受けて、みんなでやりましょう!って盛り上がって。なんと日本全国で輸出用清酒製造免許の交付第一号という歴史的な栄誉を勝ち取ったんです。これによって、haco styleが日本酒のプロデュースを担当し、香港のパートナーが現地での輸入・販売を一手にさばくという、みんなの想いが重なり、世界へ挑戦する強力なチームが誕生しました。

06

常識を壊すラベルデザイン。
徹底的なこだわりが伝えるもの

海外市場に特化したブランド「流觴(りゅうしょう)」ですが、外観のビジュアルにもかなりのこだわりを感じます。

そう、ラベルデザインには徹底的にこだわりました!四季のバージョンを作ってもらい、まるでトレーディングカードのように、海外の方に「集める楽しさ」を感じてもらえるような仕掛けにしたんです。作画をお願いしたのは、只見出身のNakano Rioという30代若手のイラストレーターで、ねっかが立ち上げからイラスト全般を依頼している方です。とても個性的な絵を描きます。ねっかのモットーはできる限り地元ファーストでやる。なので、デザインは自然と彼にお願いする形になりました。みんな彼の大ファンでサポーターです。

ラインナップも、彼と一緒に只見のストーリーを詰め込んでいきました。はじめは、「雪龍Snow Dragon」からです。雪深く水がきれいな只見。水があるという事は竜神がいる。その辺をうまく組み合わせて雪龍に。でも、ラベルの絵がドラゴンボールっぽくなって、何度もやり直してもらいました(笑)。次が定番商品の「流觴 大吟醸」。そして、雪で熟成させた秋のお酒「月茜 Scarlet Moon」。只見の紅葉は山が燃えるように赤くなる、鹿も出てくるというので、ちょっと幻想的なイメージで、紅葉・月・鹿を題材にしました。最後が「楚楚可憐 Soul Soul Karling」。低アルコールの日本酒ともち米を掛け米に使ったほんのり甘味の米焼酎セットで、女性やお酒が初めてという方向けです。この楚楚可憐は、大人の女性のニュアンスを持つ『楚楚 Soul Soul』と、まだ少女らしさが残る『可憐 Karling』を表現しています。。流觴シリーズの文字は私の親友の書道師範が書いてくれたもので、みんなの強い思いがこの1本に詰まっています。

ただ、楽しくなりすぎちゃってみんなでこだわり抜いていたら、ねっかの社長に「酒蔵の資材にこんなに金をかけるな!いい加減にしろ!」って愛のあるお説教をされたくらい(笑)

西尾葉子さん インタビュー06
西尾葉子さん インタビュー07
07

二人で持った「利き酒師」の資格。
数千人の強力なコミュニティ

香港でのプロモーションや販売は、どのように展開していったのですか?

ここで、私たちのプロとしての強みがががっちり活きてくるんです。実は、お酒の販売免許が下りるのを待っていた下積みの2年間のうちに、香港のパートナーだけでなく、私も一緒に「利き酒師」の資格を取得しました。海外の流通現場では適切な管理ができずに劣化してしまった日本酒が並ぶことも多く、まずは正しい『教育』から入らなければ、どんなに良いお酒を輸出しても品質が落ちてしまうのでは蔵元に失礼だという強い危機感がお互いにあったからです。そこから彼は香港現地で講師となり、10年以上もトップクラスの養成講座を続けて、ホテルのトップバーテンダーや高級レストランのソムリエ、プロのバイヤー、そして現地の富裕層など、数千人もの熱心な利き酒師の生徒たちを育て上げてきました。私たちが仕掛けた「日本酒と米焼酎の2種類を自分でミックスして自由に楽しむ」という型破りな提案も、お酒の本質を知る彼らの強力なコミュニティがあったからこそ、誰も飲んだことがない段階の先行予約から「これは本当に面白い!」と熱狂的に受け入れてもらえたんです。

08

福島の人々が紡ぐ圧倒的な想い。
独自の製法と熱意の結晶

独自の製法や品質の裏側には、どのような熱意が隠されているのでしょうか。

奥会津蒸留所ねっかは、ただのお酒を造る場所ではありません。彼らは地元の農家さんと共に、自らの手で酒米作りから一貫して行う、とてつもないこだわりと郷土愛を持った熱いチームなんです。その彼らと私たちががっちりタッグを組み、大吟醸の香りがする独自の米焼酎を日本酒に添加する「柱焼酎」という江戸時代の製法を現代にアップデートさせた独自のスタイルを完成させました。

商品開発のプロセスでも、福島県清酒アカデミーの若い先生たちが私たちの熱意に本当に深く付き合ってくれてね。こちらがオーダーしたサンプルを、ものすごい量作って一緒に試行錯誤してくれたんです。そうした福島の皆さんの「この地域の魅力を何としても世界へ届けたい」という執念とプライドがあるからこそ、香りが極めて華やかなのに、暑い海外で常温のまま置いておいてもクオリティが損なわれにくい、奇跡のようなお酒が生まれました。この挑戦は香港のコンペティションでも高く評価され、大きな受賞を重ねることもできました。

西尾葉子さん インタビュー08

Message

一人じゃ何も作れない。
常識のOSを塗り替え、繋がっていく未来

西尾さんの周囲を巻き込む圧倒的なエネルギーの源泉と、これからの展望を教えてください。

よく周りから一人でこれだけのプロジェクトを立ち上げてすごいねと言われますが、いやいや、何も一人じゃ作れないんですよ。米作りから一切妥協しないねっかのみなさんがいて、寝食を忘れて並走してくれた清酒アカデミーの先生がいて、必死に箱を組み立ててくれる地元の人がいて、世界で売ってくれる仲間がいる。関わる人すべての、この地域とお酒に対する強烈な「想い」がギュッと詰まっているからこそ、この贅沢なお酒が出来上がっています。

地域への恩返しとして、只見の子供たちの視野を広げるための活動も続けています。東京から一流の技術者を連れていき、もう4年ほど定期的にプログラミング教室を中学校の授業の1コマとして開催しているのですが、過疎化が進む地域だからこそ、子供たちに外の世界と繋がる最先端の学びの選択肢を届けたいという強い想いから立ち上げたものです。これからも、自分の凝り固まった常識というOSを常にアップデートしながら、お酒の枠を超えて、人と人との幸せな連鎖をどんどん広げていきたいですね。

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Afterword

西尾さんとの対話を終えて、いちばん胸に残ったのは、「一人じゃ何も作れないから」という、あまりにも自然な一言でした。

華やかなキャリアや海外展開の裏側には、週末ごとにカメラを抱えて酒の現場を歩いた下積みの日々があり、過疎の町で地元の人たちと肩を並べて箱を組み立てた時間がありました。東京、香港、福島、離れた場所を横断しながらも、その中心にあったのは、いつも「人」だったように思います。

交付第一号の免許取得、トレーディングカードのように集めたくなるラベル、二つのお酒を自由にミックスして楽しむ提案。一見すると型破りなアイデアの数々も、現場で積み重ねてきた泥臭い挑戦と、地域に根ざした想いがあるからこそ、不思議な説得力を持っていました。

取材を通して見えてきたのは、“日本酒を売る人”というより、人と地域、人と文化、人と未来をつなぎ直していくプロデューサーとしての西尾さんの姿です。

過疎の町へプログラミング教室を届け続ける活動も含めて、その挑戦はお酒という枠を軽やかに飛び越えていく。「楽しく自由に巻き込んでいくこと」。その在り方自体が、これからの地域と文化の可能性なのかもしれません。

筆者画像

秋田 信明 Nobuaki Akita

Wakku Inc. CEO|wakkul

SI・Web業界での28年の実務経験を経て、現在はセルフプロモーションサービス wakkul(ワックル) の企画・設計・運営を手がける。モデル・職人・料理人・エンジニアなど、あらゆる分野で技と物語を持つ人が自分らしく世界へ発信できる場づくりをテーマに、戦略と技術の両面から取り組んでいる。

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